16.4. 菌類(真菌)
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生命に関連する元素をリサイクルして、他の生物が利用できる形態で環境に戻す役割を果たしている ほぼすべての植物は菌根を形成し、植物の根と菌類の共生により植物が土壌から水分や無機塩類を容易に吸収できるようにしている こうした生態学的な役割に加えて、菌類は様々な方法で古くから人類に利用されている
パン生地をふくらませるために菌類を付加
ある種のチーズを製造するためにミルクの中で菌類を生育させる 分子遺伝学的解析により、菌類と動物は共通の祖先から約15億年前に分化したと推定される しかし、間違いなく菌類の化石として認められるものとしては、最も古いものが葯4億6000万年前のもの
地球上の菌類の祖先は顕微鏡でようやく見える大きさしかなく、化石としてほとんど残らなかったためと考えられる
菌類を研究する生物学者はこれまでに10万種以上の菌類を記録しているが、地球上には150万種程度の菌類が生息すると推定されている
菌類の分類学は継続的に研究が進められているが、現在のところ菌界を5つのグループに分ける系統樹が広く認められている 菌類の特徴
菌類の栄養吸収
この栄養法では、周囲の環境から低分子の有機物を細胞に取り入れる 菌類は強力な消化酵素を食物中に分泌することにより、体外で食物を消化する 消化酵素は複雑な分子を単純な低分子化合物に分解して、菌類による吸収を可能にする
菌類は倒木、動物の死体、生物の排泄物などの生命を持たない有機物質から栄養分を吸収している
菌類の構造
大部分の菌類が形成する細い糸状体
菌類の細胞壁は、通常は主成分がキチンとよばれる強靭で柔軟な多糖類であり、昆虫の外骨格にも見いだされる成分が利用されている ほとんどの菌類は多細胞の菌糸を有し、鎖状に連なった細胞が孔のある隔壁によって隔てられている
菌類の菌糸が分岐を繰り返して形成する複雑に織り合わされたネットワーク
この菌糸体は菌類が栄養を吸収する形態
菌糸体はほとんど地下にあり、時として非常に大きく成長することがある
オレゴン州の国立公園の林の中で、直径5.5km, 面積8.8km²に及ぶ、とてつもなく大きい菌糸体が発見されている
この菌糸体は2600年前から存在しており、数百トンの重量を有することから、地球上で最年長で最も大きな生物
菌糸体は栄養源の有機物に縦横に侵入して接触面積を最大にし、有機物を分解して吸収する
バケツ1杯の有機物に富んだ土壌には、何kmもの菌糸が組まれている
菌類の菌糸体は迅速に成長し、栄養源の内部に菌糸を侵入させる
大部分の菌類は動くことができず、食料を求めて走ることも泳ぐこともできない
しかし、菌糸体が菌糸の先端を新たな領域に向かって急速に伸長させていくことにより、動けないという弱点を補っている
菌類の増殖
キノコ(子実体)は、実質的にはぎっしり詰まった菌糸でできている https://gyazo.com/f9efcec0b4dec1fc6eef8b6fc6812eee
キノコは菌糸体から発生する
菌糸体の役割は有機物から吸収によって栄養分を得ることであるのに対し、キノコの役割は生殖である
地下で生育する菌類が胞子を空気の流れの中に散布するためには、地上に顔を出さなければならない
菌類は、有性的または無性的に一倍体の胞子を形成することにより生殖することが多い 菌類は驚異的な数の胞子を生産する
たとえば、ホコリタケはその生殖構造体であるキノコから、数兆個の胞子を雲のように吹き出す 放出された胞子は風や水流によって運ばれ、栄養分のある湿気を含んだ場所に着地すると発芽して菌糸を伸長する 多くの菌類が広範な地理的分布を示すことは、このような効率的な胞子の散布機構により説明できる
空気中に浮遊する菌類の胞子は地上から160km以上の上空でも見つかることがある
過程内でも、パン切れを1週間放置すると、空中から降り注いだ目に見えない胞子から生育した線毛のような菌糸体(カビ)を見ることができるだろう 生態系の中の菌類の役割
分解者としての菌類
分解者がいなければ、炭素や窒素などの元素は死骸など命のない有機体に蓄積される一方
有機質の廃棄物の分解者としての菌類はよく適応している 細菌と菌類との協調した活動や、ところによっては無脊椎動物の働きにより、生物の老廃物は完全に分解される 空気中には菌類の胞子が大量に浮遊しているため、落ち葉や昆虫の死体が発生すると速やかに胞子が降り注ぎ、やがて菌糸がこうした有機体に侵入する
毎年、全世界の果物の収穫のうち相当な量がカビのために失われている
寄生性の菌類
寄生とは、接触して生育する2種の生物の間で一方が利益を得て、もう一方が障害を受ける相互関係 既知の10万種の菌類の中で、約30%が寄生体として生きている 寄生性の菌類は、宿主の細胞や体液から栄養分を吸収する
約50種の菌類がヒトなどの動物に寄生することが知られている
致死性のある肺の感染症や、膣内に酵母が繁殖する感染症がある 水虫とよばれ、非常に伝染しやすいが、抗真菌性の軟膏や粉薬により治療することができる 寄生性の菌類の大部分は植物に感染する
菌類の植物への感染により景観が文字通り一変してしまうことがある
菌類は農業のうえでもやっかいな疫病を引き起こし、作物に感染する菌類の中にはヒトに毒性を示すものもある 麦角に感染した穀類の粉を摂取すると、幻覚や一時的な狂気に襲われ死亡することもある 菌類の商業的な利用
キノコを食べる人は多いが、それが地中の菌類の生殖のための構造体を摂取することであることに気づかない人が多いだろう
キノコは商業的には穴蔵の牛糞の肥やしの山などで栽培されているのだから、商店で飼ってきたキノコは徹底的に洗ったほうがよい
食べられるキノコは野原や森や裏庭にも生息しているが、中には毒キノコもある
食べられるキノコと致命的な毒キノコを簡単に見分ける方法はない
トリュフは木の根とともに生育するキノコであり、食通の間で大いに珍重されている ブルーチーズなどの特定のタイプのチーズの独特な味わいは、菌類による熟成によるもの 食品の製造で最も重要なのは、単細胞の菌類である酵母 菌類は医学上も有用
2007年には、ヘーゼルナッツの木に被害を与えるある種のカビが強力な抗癌剤を生産することが発見されている